中学生の現行(H27年度時点)の教科書は平成24年度に大きく改定されたものを採用しています。
カリキュラムはもちろん、内容そのものも昔と比べ、相当見直されました。
以前にも、一部をご紹介しましたが、今回は理科の変更点を5つにまとめてご紹介いたします。
(1)単位を国際基準に揃える
教科書では、単位は国際単位系(SI)に基づくことになっています。改定となったもの3点は以下の通りです。
1.リットル
SIでは,本来人名に由来する単位は大文字を使い、それ以外はすべて小文字を使うのが原則。ただし、リットルをl とすると,数字の1との区別が難しいということから,1979 年に大文字のLを新たな記号として用いることが採択され,世界標準となりました。
日本では、2006 年から高校の教科書でLを使うように変更され、小学校・中学校でもそれに合わせるようになりました。
(文科省では「特にリットルはℓ・l・Lいずれでもよい」としており、答案でLを書かなければ誤りということではないとしています。)
2.速さ
SIに基づいて、文科省の検定意見によって変更されました。これまで「秒」や「時」 を使用していたのは、単なる慣例的なものとしています。なお、SIでは「分」は「min」ですが、各教科書ともm/分を扱わないようにして対応しています。
《入試での扱い》
平成25年度春入試でcm/秒・m/秒が香川県でのみ見られましたが、他はすべてcm/s とm/s で扱っています。
3.圧力
N/m²からPaに統一(一部はN/m²も使用)。
(2)分類法
1.藻類について
ひと昔は、植物の仲間として教科書に載っていた藻類ですが、今は「原生生物」として表記されています。
〜日本植物生理学会のHPの質問コーナー(No.2768)より〜
藻類が植物かそうでないかは、「植物」をどう考えるかによります。植物とは何か、についてはこれまでいろいろな考え方が出されてきました。おそらく多くの人になじみ深いのが、「光合成をして独立栄養で生きる生物(いわゆる生産者)が植物である」という考え方だと思います。この場合、藻類は植物ということになります。しかし近年、生物の系統関係(類縁関係)に基づく分類体系の見直しが進められている中で、この考え方は現実的ではなくなってきました。つまり、上述の意味での植物は単系統群(1つの祖先から進化したひとまとまりの近縁なグループ)ではないことが明らかとなっているのです。例えば、植物(藻類)として扱われていたラン藻類は、他の植物よりも大腸菌などに近縁です(そのため最近はシアノバクテリアと呼ばれています)。
これに対して、最近広く受入れられている考え方は、「陸上植物、つまりコケ植物、シダ植物、種子植物を植物とする」考え方です。陸上植物は単系統群ですから、これは分類学の考え方によくフィットします。この考え方の下では、すべての藻類は植物ではないことになります。他にも、陸上植物と緑藻類を植物とする考え方、陸上植物、緑藻類、紅藻類、灰色藻類を植物とする考え方などがあります(これらは葉緑体の起源に基づいた考え方です)。これらの場合、植物に含まれない藻類は、シアノバクテリアを除いて大まかに「原生生物(原生動物と藻類を合わせたグループ)」に分類されることになります。ただし、原生生物自体も単系統群ではなく、様々な系統群を含んでいます。生物の系統関係が明らかになるに連れて、藻類は原生生物の中の様々な系統群に散らばって存在することがわかってきています。
石田 健一郎先生(筑波大学)
2.分解者について
○平成23 年度用までの教科書での定義
生産者:光合成を行う植物。
消費者:ほかの生物を食べて栄養分を得る動物。ただし、菌類・細菌類のような有機物を
無機物にする最終分解者は除く。
分解者:有機物を無機物に分解する菌類や細菌類(最終分解者)。
●平成24 年度用以降の教科書での定義
生産者:光合成によって自分で栄養分をつくる生物。つまり独立栄養を営む生物。五界説
において原生生物界に属する緑藻類など植物ではない生物も含む。
消費者:ほかの生物から栄養分を得る生物。つまり従属栄養を営む生物。
分解者:消費者のなかで,生物の遺骸やふんなどから栄養分を得る生物。
それぞれ,生物の役割(はたらき)を示す言葉の定義に変更になっているため、例えば,
アオカビは消費者であり、分解者でもあることになる。また、ダンゴムシやミミズなどの
土中の小動物も分解者に含まれることになりました。
(3)分解
1.脂肪の分解
以前の教科書では、脂肪が「脂肪酸」と「グリセリン」に分解されると表記されていましたが、科学技術が日々進歩する中、現行の教科書から脂肪の分解について見直されました。
〜啓林館のQ&Aより〜
文部科学省からの検定意見により,平成24年度用教科書では,「脂肪は脂肪酸とモノグリセリドに分解される」となりました。
モノグリセリド(別名:モノアシルグリセロール)は,グリセリン1分子に脂肪酸1分子がくっついた状態のものになります。つまり,モノグリセリドとグリセリンの違いは,脂肪酸1分子の有無です。
今までの教科書では,モノグリセリドは,モノアシルグリセロールリパーゼによって,グリセリンと脂肪酸までさらに分解が進むという考えでしたが,近年の研究により,そこまで反応が進むことはないことがわかってきています。小腸粘膜では,グリセリンまで分解されるより先に,脂肪が再合成されてしまうようです。
脂肪(別名:トリグリセリド,トリアシルグリセロール)は,グリセリン(別名:グリセロール)1分子に脂肪酸3分子がくっついた形状をしています。脂肪は消化の際に,2種類のリパーゼによって分解されます。
まず,トリアシルグリセロールリパーゼによって,脂肪(別名:トリグリセリド,トリアシルグリセロール)は,ジグリセリド1分子と脂肪酸1分子に分解されます。
さらに,ジアシルグリセロールリパーゼによって,ジグリセリドは,モノグリセリド1分子と脂肪酸1分子に分解されます。
2.デンプンの分解
以前の教科書では、だ液によりデンプンが分解されて糖になる」と記述されていましたが、文部科学省の検定意見により、デンプンも糖のひとつとして扱うことになりました。
実際にはデンプンをアミラーゼで分解すると、ブドウ糖が2分子結合した麦芽糖や、ブドウ糖が3 分子以上結合したものができるということ(完全にブドウ糖になることはないこと)がわかっています。よって、あらたに糖の名前を出さない方が良いという判断から、
「デンプンが分解されると、ブド ウ糖が2つつながったものや、3つ以上つながったものができる」という表現が用いられ るようになりました。
言い換えれば、
これまでのアミラーゼでブドウ糖にまで分解されるという指導は誤りで、2つまたは3つ以上つながったものになると指導することになります。
《入試での扱い》
デンプンが分解されてブドウ糖が2つつながったものや、3つ以上つながったものにな るという出題は見られません。また,だ液のはたらきだけでなく、土を水に入れて取り出し た上澄みでの実験で、微生物のはたらきで糖になることを確認するものも多く見られます。どちらの 実験でも、入試では実験結果を問うものが多く、あまり神経質になる必要はありません。
ただし、だ液でデンプンがブドウ糖になるというと誤りとなるのでご注意を。
「ヨウ素液はデンプンだけに反応し、ベネディクト液はデンプンが分解され てできた糖に反応する」という程度に留めておけば十分です。
(4)気団の扱い
気団の扱いは、各教科書会社によって次のようになっています。
<大日本図書>
従来どおり、4つの気団を扱う。揚子江気団の一部が移動性高気圧になると明記。
<東京書籍>
文章中に出てくる気団は、シベリア気団・小笠原気団のみ。ただし、後述のよう に気団より高気圧を主体とした説明になっており、図にはシベリア高気圧・太平 洋高気圧を掲載。梅雨はオホーツク海からの「冷たくしめった気団」と太平洋か らの「あたたかくしめった気団」の間に停滞前線ができるとしていますが、梅雨の 説明では小笠原気団は登場しません。ただし、夏の天気の説明では小笠原気団が登場 。また、高気圧が発達して中心部分にできるものが気団としています。
<啓林館>
シベリア気団・オホーツク海気団・小笠原気団を扱い、揚子江気団は出てきません。 移動性高気圧については、「偏西風の影響を受け」とし、最も簡単な説明になっ ています。なお、気団は高気圧が発達してできたものとしています。
<教育出版>
シベリア気団・オホーツク海気団・小笠原気団を扱い、揚子江気団は出てきません。 移動性高気圧については、「長江流域で発生した」と明記。気団は高気圧が発達してできたものとしています。
<学校図書>
シベリア気団・オホーツク海気団・小笠原気団を扱い,揚子江気団は出てきません。 移動性高気圧は、中国大陸で発生すると簡単な説明にしています。また、「気団の 中心に高気圧ができる」としていて、他社とは違う説明になっています。
大日本図書だけが揚子江気団を残していることからもわかるように、
教科書会社によって、微妙に見解が異なっています。
元々、気団の定義は「移動しない、または、移動しにくい停滞性の大規模な高気圧」で あり、揚子江気団はこれに該当しないという見方が一般的になってきているようです。
「新しい教科書では、日本の天気について考えるときに、気団を主体にするのではなく、高気圧を主体に位置づけております。
そのため、従来のようにシベリア気団、小笠原気団、オホーツク海気団、揚子江気団の 4 気団の勢力バランスによって説明するのではなく、シ ベリア高気圧、太平洋高気圧、オホーツク海上の冷たくしめった高気圧、移動性高気圧によって、日本の四季に特徴的な天気がもたらされる様子を説明しております。
なお、掲載している固有の高気圧名と気団名は、学習指導要領解説に示されているものに限定しております。
また、これまで揚子江気団とよばれていたものは、実際にはシベリア高気圧の一 部が温暖化して偏西風などの影響で分離したもので、揚子江気団という固有の気団は存在しないことから、特にこの名称は用いないことにしております。」
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《入試での扱い》
平成25年度千葉県後期入試で揚子江気団の性質を問う問題が出題。
2011 年までは全県で大日本図書を採用し ていましたが、2012 年からは船橋市で啓林館を採択しているため、出題できなくなりました。 なお、他の都道府県で気団を出題する問題では、揚子江気団は出てこないものの、シベリア気団・オホーツク海気団・小笠原気団は必ず出てきます。理科を出題する私立高校を受験する生徒や、東京書籍の地域では注意が必要です。
(5)名称の変化
花びら→花弁
裸子植物のやく(葯)→花粉のう
ばねはかり→ばねばかり
ポリエチレンテレフタレート→ポリエチレンテレフタラート
その他
浸食→侵食
新生代の第三紀・第四紀→古第三紀・新第三紀・第四紀
哺乳類・鳥類は爬虫類が変化→両生類から爬虫類・哺乳類。爬虫類から鳥類へと変化
※一部の教科書は以前のまま。
電圧を表す記号E→電圧を表す記号V
鉱物表(右側に有色鉱物)→鉱物表(左側に有色鉱物)
いかがだったでしょうか。このほかにも改定となったものはたくさんあります。
次回は他教科の変更点をご紹介いたします。
お父様お母様が受験された当時と大きく内容が変わったものもありましたね!
仮に、お子様に勉強をご指導される機会が生じる際は、
「学校の教科書を熟読してから」よろしく御願いいたします。
中学校教科書はH28年度改定!
中学生の教科書は、来年度改定となります。
各教科書会社によって異なっていた表記も統一され、わかりやすくなることに期待!!
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